先日、ショッキングの記事が、ヤフーニュースに流れました。
『ワタミ、身売り話も飛び出した三重苦の実態』(2015年9月7日)
ワタミの下落は止まりませんね。
同業者として、決して対岸の火事ではありません。
そこで今回は、ワタミの凋落の原因と、その簡単な立て直し方法について私の所見を述べていきたいと思います。
祖業である外食に加え、介護と宅食も業況が厳しくなる
ワタミは2014年度128億円(△8.2%)の最終損失を計上して、2期連続の赤字となりました。
2015年度に入ってからも、第1四半期(4~6月期)は15億円の最終赤字です。
6月末時点の自己資本比率は6.2%まで低下してしまいました。
自己資本比率に関して2013年3月期末は25.4%、純資産は320億円ありましたので、たった2年で6.2%、78億円にまでに落ち込んだわけです。
ここ数年のワタミ全体と各事業別の当期純利益を表にしますと
このように祖業である外食に加え、介護と宅食も業況が悪化していることが分かるかと思います。
ワタミの介護や宅食は、外食事業から得られる利益を原資に拡大してきましたので、そこが傾けば必然的に厳しくなります。
ワタミはこの事態の打開に向け、
- 不採算店舗の大量閉鎖
- 返済が迫ってきた短期借入金の長期切り替え
- 工場などの売却
などの方針を掲げ、さらに利益率の高かった介護事業の売却の話も出てきたのです。
ワタミはなぜここまで凋落してしまったのか
ワタミは2015年3月までに626店舗あったお店を102店舗閉鎖しました。
もともと60店の撤退を計画していたようですが、2014年9月中間決算で41億円の最終赤字となるなど業績不振が止まらず、急遽全体の約15%に当たる大量閉鎖にいたったのです。
かつて「不況に強い」とされていた居酒屋チェーンの雄、ワタミはなぜここまで凋落してしまったのでしょうか?
引き金となったのはみずからが仕掛けた価格競争です。
2008年9月15日にリーマン・ ブラザーズが破綻(リーマンショック)した以降、居酒屋の客数は前年割れが長く続きました。
もちろんこれは、「若者の酒離れ」や「飲酒運転の取締強化」などの背景も重なり、居酒屋マーケット自体が縮小していたこともあります。
この事態を打開すべく2009年に「生ビールの100円値下げ」を打ち出したのがワタミです。
通常、飲食業界の生ビールの原価は200円前後なので業界に大きな衝撃が走ったのは言うまでもありません。
価格競争で負のスパイラルに
これを機に居酒屋チェーンでは値下げ合戦へと駆り立てられていきました。 10円単位での値下げ、均一価格店の登場もこの頃です。
しかしその代償は大きかったです。
なぜなら価格を下げるために、人件費を削らなければ利益は出なくなったからです。
そうなりますと必然的にサービス力が弱まります。
またお客様の利用動機が「安さ」だけに絞られますと、10円でも安いお店が選ばれるようになります。
その結果、居酒屋チェーンは負のスパイラルにはまり、仕掛けたワタミも巻き込まれていったのです。
そこを顧客の嗜好の変化が襲う
2011年3月の東日本大震災以降、お客様の嗜好の変化が起こりはじめました。
食事やお酒を楽しむときにとにかく安さを求める層と、付加価値を求める層に二分化されたのです。
安さを求める層はコンビニで買い求めた食品やお酒を自宅で飲む「家飲み」や、「立ち飲み」やファミレスで十分だと考える「ちょい飲み」がブームになるのです。
吉野家や松屋、日高屋の「ちょい飲み」もここから発生しています。
これに対して、ただ飲んで食べるだけでなく、仲間との団らんをはじめとする付加価値を求める層は、回数を減らしても少しぜいたくなお店へ出かけるようになりました。
この代表がAPカンパニーの運営する客単価4000円ほどの塚田農場です。
このとき価格競争に繰り広げていた居酒屋チェーン各社は、ちょうどこの中間となり、完全に特徴がないものになってしまいました。 こうなると総合居酒屋は中途半端でなんの魅力もなく、もはや強みが曖昧となり、しだいに競争力を失われていったのです。
逆にコンビニや立ち飲み店、ファミレスはこうした需要に対応するべく、さまざまな手を打ち成果を挙げたのは周知の通りです。
居酒屋業界はもはや価格の安さだけでは集客できなくなってしまったのです。
10年以上に既存店の売上前年割れが続いている
ワタミの2年連続赤字の危機の原因は、何といっても主力事業である居酒屋チェーンの不振です。
居酒屋事業の売上は直近10年以上にわたって既存店の前年割れが続き、経費をコントロールして何とか利益を捻出しました。
その経費とは主に人件費となるでしょう。
上場企業は多くの一般投資家から資金を預かって投資し、事業を成長させていっているので、株主のためにも利益を出していかなければなりません。
そのため日々の利益目標が先にあって、売上に応じて、社員の勤務時間=人件費を操作して利益が出るように帳尻を合わせるのです。
ワタミはブラック企業なのか
ワタミの不振に追い打ちをかけたのは、「過労自殺」問題です。
2013年6月、部下に対して「365日24時間死ぬまで働け」「出来ないと言わない」と説いている社内文書「ワタミグループ理念集」の内容が週刊文春に掲載されました。
同12月、2008年に自殺した元ワタミ社員の両親が損害賠償を求めてワタミを提訴しました。
このころ池上彰さんとのインタビューで、過労を苦にした自殺者が出たことについて「それでブラック企業と言われたら、日本には千や万のブラック企業がある」と渡邉美樹さんが述べたこともネットユーザーを刺激する形になりました。
これらをきっかけにワタミは完全に「ブラック企業」の代名詞として扱われ、それが客足にも少なからず影響を与えていくことになるのです。
ブランドを創るのには時間がかかりますが、壊れる時は一瞬です。
ワタミはこれまでコツコツと創り上げた基盤を一気に崩れていったのです。
迷走する外食事業の戦略
もちろん外食事業の低迷に対して、ワタミも手をこまぬいていたワケではありません。
昨年(2014年)1月にはメニューの半分を刷新しました。
客単価をあげるための施策として専門店で提供されるレベルとクオリティの商品を導入しました。
しかし料金を気にしないで気軽に頼めるお店として定着していたワタミの印象は、簡単に拭えませんでした。
そのため3月には追加施策として、単品価格の見直しを敢行しました。
生ビールやお通しの価格を下げ、お値打ち感を打ち出したのです。
しかしながら、これらも不発に終わるのです。
そして2015年に入り和民では、9月からご飯ものや麺類を中心に、メニュー数を増やす方針です。
「商品のバラエティ感を出してほしい」との消費者の声を受けたもので、商品数は68から85と増やすそうです。
ただ、同業態では、4月にメニュー数を減らしたばかりなのです。
短期間でのメニュー戦略の転換によって、店舗のオペレーションに問題が生じないか、懸念はぬぐえません。
介護や宅食事業も利益が出せなくなってきた
加えて、居酒屋の不振を補ってきた介護や宅食事業も利益が出せなくなってきています。
このうち介護事業では、2年前まで90%を超えていた入居率が、15年3月期は77.9%にまで落ち込みました。 2013年に入浴中の死亡事故が発生したほか、今年2月にはノロウイルスが原因で入居者が亡くなられました。
命を預かる事業だけに、こうした事案が少なからず入居率に影響したと考えられます。
また右肩上がりで成長を続けてきた宅食事業も、配食数が減少傾向にあります。
高齢者市場の拡大をにらんで2008年に参入しましたが、ここ数年で多くの競合が台頭し、健康をうたった類似商品が続出したことが原因です。
このほかに外食や介護におけるネガティブイメージも重なり、直近7月の1日当たり配食数は24.2万食と、2013年後半のピーク時から16%減の水準まで落ち込んでしまったのです。
つまり、ここ2年不振の外食事業を、介護や宅食で下支えするという構造が崩れ落ちたのです。
ワタミの立て直しのポイント
これだけ負の連鎖が続くワタミを立て直しポイントは二つです。
一つめは「ワタミの看板にこだわり過ぎないこと」です。
ワタミやわたみん家といった主力ブランドは長年にわたり苦戦しています。
しかしワタミの名前が付いていない(隠れワタミといわれる)レストラン業態のBARU&DINING「GOHAN」やごちそう厨房「饗の屋」などは好調に推移しています。
そこで、あえて毀損したワタミブランドを隠すことで「多ブランド化」を図るというわけです。
そしてもう一つは、ワタミの名がついた社名を変えることです。
2013年に渡邉美樹さんが取締役会長(非常勤)を辞任しましたが、噂の範疇では、まだワタミ経営相談にのっていると聞きます。 真意のほどは定かではないですが、このような噂が出ている以上、思い切ってワタミと付いた社名を変えてみるのはどうでしょうか?
市場は論理ではなく感情で動きます。
ワタミという名だけで、消費者を刺激するのはたしかです。
また同業だから言えますが、ワタミだけがブラック企業ではありません。
2014年度株式上場している外食企業82社の平均の経常利益率はたったの1.4%です。
この数字からみても外食企業はどこもかしこも経営は苦しいのです。
どの企業も経費をコントロールして何とか利益を捻出しているのは間違いないでしょう。
だからこそ、ワタミ存続のためにも社名を変えてでも生き残ることを選択して欲しいのです。
今後のワタミの選択に関して、いち経営者として、いちコンサルとして目が離せません。
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加納 聖士