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【多店舗展開】における5つの問題点

多店舗展開の問題点

多店舗展開には「15のメリット」に代表される優れたメリットがあります。しかしその一方、デメリットや問題点もあることを忘れてはなりません。

多店舗展開における5つの問題点について動画で解説していますので、ご覧ください。

多店舗展開は、現在から近未来の厳しいビジネス環境の中で店舗ビジネスを維持・発展させる唯一の選択であり、会社を倒産させないためのリスクヘッジとなるものだと、私はいつも言っています。

少子高齢化や労働力不足、原材料費高騰、求人コスト上昇などさまざまな社会的要因が店舗ビジネスの利益率を押し下げている中にあって、店舗経営の仕方がこれまでと同じでは利益率は縮まる一方で、経営者の資産形成はおろか運転資金の調達もままならない状況に陥ります。

だからこそ、多店舗展開により利益率を向上させなければいけないのですが、あくまでも「これまでのやり方を変える」ことが前提です。

ただ店舗数を増やせば自動的に利益率が向上するわけではありません。売上が向上したとしても、経費がそれ以上に増えれば、ますます経営が苦しくなるだけです。必要なのは、正しい手順での多店舗展開です。手順を誤ったとき、さまざまな問題点やデメリットが現われます。

では、どんな問題点が生じ、どんなデメリットがあるのかを、弊社独自の視点から解説していきます。

多店舗展開における5つの問題点

多店舗展開に成功する企業と、多店舗展開をしたことによって業績が悪化した企業には、どんな違いがあるのでしょうか。

成否を分ける大きな分岐点となるのは、次に挙げる5つの問題点を解決できるかです。

【多店舗展開の5つの問題点】

  • 1店舗あたりの売上と利益が下がる
  • 人材採用の難しさ
  • 人材育成の難しさ
  • 社内の空洞化現象
  • 投資回収の甘さ

さらに、上記の5点に大きくかかわる多店舗展開のデメリットは次の7つです。

【多店舗展開の7つのデメリット】

  • 出店が増えるのに応じて固定費・変動費が増大する
  • すべての店舗が成功・繁盛するとは限らないので、不採算店ができたときに、ドル箱店の足を引っ張るリスクがある
  • 他の店舗と商圏を食い合う可能性がある
  • 1店舗で不祥事が発生すると、全店に風評被害の影響を受ける
  • その他の管理全般が複雑化し、負担が増える
  • 社長と従業員の間に距離ができ、営業利益が落ちる可能性がある
  • 社長と末端の従業員の間に中間管理職が入ることにより意思疎通が滞る

これらの問題点とデメリットを解消、または極小化することができれば、多店舗展開は成功し、店舗ビジネスを永続させる可能性が高くなります。逆にこれらに対して何の手も打たなければ、多店舗展開は無駄になり、かえって資金ショートのリスクを増やすことにつながります。

問題点とデメリットの解消法

では、5つの問題点に即して、具体例を示し、その解消法を考えてみましょう。

1)1店舗あたりの売上と利益が下がる

これには店舗メンバーの質の問題と、商圏の問題とが関わっています。

1店舗めの成功・繁盛は、主に創業者である社長が店長を務め、頼れるメンバーを集めて力を合わせてがんばった結果でしょう。2店舗め、3店舗めでは、社長が店長を兼任することもあるでしょうし、創業メンバーのうち社長の経営戦略や方針、具体的なオペレーションを身近で学んだ、頼れるメンバーが店長となり、1店舗めの経営手法を踏襲して活躍してくれるケースが多いようです。

つまり3店舗めまでは、そもそも戦闘力が高く、売上や利益を上げる能力のある創業メンバーが店舗を引っ張っていけるため、どの店も繁盛する可能性が高いのです。

ところが、さらに店舗を増やし、5店舗、10店舗となってくると、社長の薫陶を直接受けた創業メンバーが店長を務めることができなくなります。

このとき、安心して店舗を任せられる人材が育成できていないと、戦闘力が低い、売上や利益を上げる能力が低いメンバーが店舗を切り盛りすることになりますから、たとえよい立地で開店しても集客ができず、採算割れして赤字決算が続くことになりがちです。

こうなると、銀行や公庫などの金融機関の審査の目が厳しくなり、追加の融資が実行されず、運転資金調達ができずに閉店、撤退に至ることがあります。

急速に出店を増やした場合に、これがよく起こります。出店スピードと店長などの人材育成スピードがマッチしていないからです。社長との距離が近い、たたき上げの社員の方が圧倒的に数字を作れるのが店舗ビジネスの特徴の1つです。

だからこそ、戦闘力の落ちる店長であっても、ある程度の売上と利益が出せるようなビジネスモデルの開発や仕組みの構築が重要となります。店舗のコンセプトづくりに始まり、事業理念に基づいた人材育成の仕組みづくりを行なった後、店舗のオペレーションや商品企画、集客・販促企画、販路企画、その他諸々の店舗運営に必要な事柄をできるだけマニュアル化、言語化し、その場に社長や創業メンバーがいなくても、会社に蓄積されたノウハウが現場のメンバーに伝わるようにしなければなりません。

オーナーの理念と会社としてのノウハウを言語化し、全従業員が共有できる仕組みをつくることにより、この問題は解決可能になります。

さらに、1店舗の売上が下がる要因に注目してみましょう。多店舗化で成功する秘訣の1つは、ある地域内を面的に、自社の商圏におさめてしまうことです。新しい店舗は、既存店舗の商圏内、または隣接する商圏に出店する(ドミナント出店)ようにすれば、地域内で知名度が上がり、集客を増やし、同業態ナンバーワンになれる可能性が高くなるため、競合店はその地域に進出しにくくなります。

その一方、自社の複数店舗の1店1店では、単独で営業していた場合よりも売上が下がることをある程度覚悟しなければなりません。同じ地域内に複数の自社店舗があれば、一部のお客様を取り合うことになりますから、どうしても売上が減少しがちになるのです。

ただ、お客様を取り合うのは自社店舗同士であるところが重要です。同業他社にお客様を取られるのとはわけが違います。

しかも減るのは売上です。複数店舗を近い距離で出店することにより、物流コスト、人件費コスト、仕入れコスト、仕入れ先管理コスト、宣伝コスト、求人コストなど、さまざまな面でシナジー効果が生まれ、コストが大きく削減できることに注目してください。シナジー効果を生む出店戦略をとれば、利益率が向上し、売上低下の悪影響を上回る利益向上が可能になります。

2)人材採用の難しさ

人材不足は日本全体の問題でもありますが、特に飲食業界の接客・給仕職については有効求人倍率が8.98倍(2017年)、つまり企業18件の求人応募に対して、1人しか求職者がいないという状況になったこともあるように、全職種の中でも特に人が集まりにくい職種になっています。

それなら給料を上げよう、待遇を改善しようと「働き方改革」に取り組む企業は多くなりましたが、実際には、多少の賃金の上積みでは求人の効果が出ず、営業時間短縮、定休日の設定などは自分で自分の首をしめる結果になることが少なくありません。

そのため、採算のとれない店舗の閉店、出店戦略の見直しに迫られているのが実情です。

この問題は今後も長期にわたって続きます。その中で問題を完全解決するのは難しいのですが、1つ言えるのは、「そこで働きたい」「そこで働いている自分がカッコいい」と、求職者や従業員が思ってくれる業種・業態にシフトしていくことです。

店舗ビジネスでは、例えば制服、ユニフォームが可愛い、カッコいい店舗には求人応募者が多いのです。おしゃれな外観、内装、業態のカフェやサロンなども人気があります。若い求職者の立場で、どんな業態、どんなスタイルの店舗なら働きたいと思うのかを考えて、コンセプトをつくりあげることが秘訣です。

3)人材育成の難しさ

ひと時代前なら、飲食店や美容室、治療院などで一攫千金を狙う若者が多くいました。しかし今では、独立して大成功したいというより、安定した企業で大儲けはできなくても自分らしさを大切にできる働き方がしたいと思う人が増えているようです。店舗ビジネスでの成功をめざし、まずは店長クラスに昇進、ゆくゆくは独立、のれん分けを狙うという人はなかなか育ちません。

多店舗展開を進めると、一般的な会社のように上司と新人が同じ空間で仕事をする機会が少なくなります。現場に社長や幹部メンバーの模範的な行動を示す機会が少なくなることで、リーダーが育ちにくくなっているのが現状です。

またコンプライアンス維持・向上のためのコストの上昇も問題です。SNSの利用が常識化し、アルバイトの不適切な行為の動画投稿をはじめとする「バイトテロ」「モラルハザード」が蔓延しています。多店舗展開では、社会的倫理感が十分でない若い従業員を登用することも多く、特に問題が顕在化します。そのため従業員の管理を厳しくし、教育を徹底する必要に迫られます。

これには会社が事業の理念を示し、理念に沿って何をすべきかを従業員にわかるように言語化することが重要です。理念・クレド(行動指針)・マニュアルなどを通して、業務ノウハウばかりでなく、事業の目的・理想・社会的意義を理解してもらうことで、自分で考え、自分で適切な行動ができる「自立自走型人材」の育成を図らなければなりません。

そのうえで、従業員のキャリアパスを示して未来へのモチベーションを高くもてる環境が必要です。多店舗化によればポストは必ず増え、キャリアパスは多様化させることができます。上のポストをめざして努力できるように社内体制や環境を整備し、従業員の成長を助ける施策を行なうことで、コンプライアンスは保たれ、リーダーにふさわしい能力を伸ばしていくことが、実は多店舗展開でこそ可能なのです。

その具体的施策については、弊社の各種養成塾やセミナー等でお伝えしています。

4)社内の空洞化現象

社長と少数の幹部メンバーで創業し、1〜2店舗の運営に成功した企業は、いわば「家業」の延長上にあります。3店舗、5店舗、10店舗と店舗を拡大する過程で、事業は「企業化」していきます。

そのとき起こりがちなのが、幹部メンバーの下に管理的が仕事ができるメンバーが育たず、入社2年以内などの新人ばかりがいるという、「社内の空洞化」です。

現場で絶えず生起する問題や疑問に対して、社長や幹部がみずから対処することができるのは、事業規模が小さい場合だけです。

多店舗化により社長や幹部と従業員との距離が遠くなった状態では、いわゆる「ホウ・レン・ソウ」(報告・連絡・相談)を書面やメールで交わすことが多くなります。細かなことまで社長や幹部の意思決定が必要で、決定結果を待たなければ何もできないようでは、従業員のフラストレーションは貯まり、業務が滞ります。あげく、面白くなくて辞めてしまうこともあります。

部下に意思決定の権限がない状態では、中小企業でも「大企業病」と呼ばれるような、指示待ち人間を増やしてしまうことが多いのです。

多店舗化にあたっては、権限の委譲を適切に行なうことが重要です。自分の裁量で何かができるということが、従業員のモチベーションにつながり、成長意欲、向上心が高まり、上級職位をめざしていこうという気運が生まれます。

なお、中間管理職が増えることで経営と現場との意思疎通が滞る現象も、規模拡大に応じて顕在化してきますが、人材教育・育成と、従業員の時間の使い方の管理を徹底することによりカバーすることが可能です。

5)投資回収の甘さ

店舗ビジネスは一般的にはスクラップ&ビルド業界と言われています。業態にも寿命があり、寿命が尽きた業態は市場から撤退しなければなりません。その業態寿命が短期化しているのが現在の店舗ビジネスのトレンドで、飲食業の業態寿命は2年とまで言われるようになりました。

その寿命の中で、投資した金額を回収しなければなりません。

そのためには、いかに初期投資を抑え、短期間で回収できるかが、会社存続のための重要な課題です。一時的なブームで急激に出店した多店舗化企業では、全店の投資を回収する前に、ブランドの業態寿命を迎えてしまうケースが増えてきています。日本政策金融公庫がまとめる『新規開業白書』によると、飲食店の開業資金の平均は、1800万円程度とされています。これは全業種の開業資金の平均1100万円程度を大きく上回るものです。

これについては、融資を確実に得るための社長自身の資産形成=信用形成、新規業態の店舗の開店資金をつくるための利益率向上、あるいは業績が悪化した店舗への他店舗からの支援など、さまざまな施策で解決が可能です。

また、業態寿命が尽きることを見越し、出口戦略を用意しておくこともお薦めしています。業績が悪くなった店舗は適切な時期に損切りすることも考えたうえでの店舗展開が必要です。

メリットとデメリットを理解したうえでの多店舗展開が重要

以上のように、多店舗化にはメリットと同時にデメリットが存在し、問題点もあることを十分に理解していただきたいと思います。

ただ、デメリットの多くは、多店舗化を正しい手順で進めることにより、解消、または極小化が可能です。

もちろん多店舗化にはリスクもあります。

ただ、店舗ビジネスを取り巻く環境が厳しくなる中で何もせずにいると、資金ショート、倒産という最大のリスクを覚悟しなければなりません。一定のリスクを承知のうえで、店舗ビジネスの楽しさ、素晴らしさを将来にわたって感じたいという方は、ぜひ、弊社が定期的に開催している多店舗化セミナーやフランチャイズ3.0構築セミナーにお越しください。